教育に関する情報公開を推進しましょう

 

土木工学科助教授 皆川 勝

1.はじめに

 このたび、ホームページを利用して各種の教育用資料を公開していることに対して教育褒賞をいただきましたので、関連して日頃考えていることをまとめました。勝手なたわごとかもしれません。しかし、本学の危機である今、私たちが提供し続けている教育システムの品質管理ができているかを確認して品質向上を図ることが、本学の社会的な評価の挽回に不可欠と思い、投稿することとしました。なお、このような「教育効果向上のための工夫」の類のことについては、私自身の実践を省みれば、後ろめたいことも多くあります。しかし、それでもなお、自分のことは棚に上げて広く議論をし、その結果を実際の教育システムに生かしてゆくことが重要と思っています。教育に関する情報公開と一言でいってもその範囲は大きいわけですが、本稿では、学生の達成度評価の面に限定することとします。

 

2.試験問題・解答例の公開を

 以前、こんな話を聞いたことがあります。

一つ目は、ある学生の愚痴。「○×先生の試験の答案は絶対返却されないんですよ。もう10年も。なぜかって?返却しちゃったら、来年度同じ問題が使えないじゃないですか。」

 二つ目はある先生の愚痴。「僕の授業の試験問題は、原則として返さないことにしています。なぜかって?今の学生は、われわれが一生懸命努力しても、それに応えて努力しようとしないでしょ。頑張るだけ無駄っていうことですよ。」

これはいったいどういうことでしょうか。教育することに対して給料をもらっている教員が、そう沢山でもない科目の試験問題を作成するのが面倒くさくて、公開しないという。公開すると来年また問題を作らなくちゃいけないから・・・・・。学生の明るい将来が拓けるよう、教育によってお手伝いをするのが私たちの仕事のはず。ところが、自分がなぜ給料をもらっているのかを忘れて、手を抜く。あるいは、手を抜くことの言い訳に、学生の努力不足を挙げる。

こういうことをいつまで続けてゆくのでしょうか?あるいは、このようなことが続くのはなぜでしょうか?私は、教育方法が科目担当者に任されていることが最大の原因だと思います。だいたい、教育技術が上手で大学教員になったひとは多数派ではないと思います。そのようなずぶの素人が、研究論文を書いているということだけで立派な教育者とみなされる。本学の場合は、それがかなり極端な形で長い間存在していると思います。

私の所属している土木工学科では、学生団体である新緑会の協力を得て、以前から定期試験の問題および解答例を印刷して実費頒布しています。学生たちはそれによって、全講義科目の「過去問」を手に入れ、試験対策に使っています。上述の二つ目の話に出てくるような教員は、現在の土木工学科には存在しません。ぜひ、学部全体にこの施策を広めていただきたいと思います。できれば、図書館などの機関で管理して、過去数年の試験問題はいつでも閲覧できるようにすることがベストと思います。それがスペースの点で無理であるなら、せめて、毎年度過去数年度分の定期試験問題集を学科ごとに作成することを検討されるよう願っています。もうすでに実施されている学科がほかにありましたら失礼をお許しください。

 

3.評価基準と評価結果の公開を

私の子供のはなし。まず高校1年生の長男の言。「お父さん、うちの高校の先生って真面目だよねえ。試験があると次の日には返してくれるんだ。先生徹夜してるんじゃないかなあ。」次に中学2年生の長女の言「ねえ、大学でも試験の後に模範解答を学生さんに渡しているの?うちの中学では全科目かならず模範解答とどんなところが間違っていたか、対策の立て方なんかをまとめて先生が渡してくれるんだよね。復習には大助かり。」

この話を聞いてくれたある先生の話。「大学っていうのは高校までとは違うんだよ、皆川先生。自分で勉強するところなんだ。僕は忙しくってそんなこととってもできなし、やる気もないね。あっと、学生と研究の打ち合わせの時間だ!あー忙しい忙しい。」

 私自身、上述した中学の先生のように、学生の理解の度合いを分析するようなことはなかなかできていません。しかし、教員が学生に試験を課して、それによって科目の合否、ひいては進級や卒業が決まってくるのに、どのような答えを要求していたのかを示すことなく、また、採点の基準も示さないというのは、あまりにもひどいと思います。現在の工学部のシラバスには成績評価の基準がすべての科目に関して記述されています。しかし、実際には、「レポートと試験による」「中間テストと期末テスト」「提出物により評価」「・・・(記述なし)」という記述の割合のなんと多いことか。各試験の配点割合などを具体的に記述しているのは少数派です。これでは、シラバスの記述の仕方がいかに改善されても、その効果は低くなってしまいます。制度の導入に対して、その実効性を監視あるいは確認するシステムの確立がどうしても必要と思えます。

私は、原則としてすべての試験の点数を履修学生に公開しています。HPに全員の点数を掲載することもあります。これを実施するためには、評価基準を明確にすることが必要になります。しかしその結果、学生は採点結果を自分で確認することができます。先生側のリスクとしては、評価基準に文句を言われること、採点ミスが発覚する可能性が高くなることなどが挙げられるでしょう。しかし、これらのことについてもし疑義があれば、疑いをただす権利が学生にはありますし、先生は評価者として説明責任があります。万一間違っていることが判明した場合には、謙虚に反省しつつ、評価の訂正を行うべきです。ただし、その結果が学生の進級などに影響することがありえますから、申し出期限を明確にすることが必要となります。

 

4.学生による授業改善アンケート結果の公開を

 現在、学生による授業改善アンケートが講義科目について実施されています。教員には教育内容の質的向上を図る義務がありますので、この実施は当然の施策と思います。このアンケートの結果は、学科の主任教授に報告され、問題のある教員がいる場合には、主任教授が改善を指導する、という流れで利用されていると理解しています。私は、学生からアンケートをとる以上、何らかの形でその結果を学生に公開するべきと思っています。理由は二つあります。一つ目は、アンケートに回答することは学生の義務ではなく、教育の改善のために協力してもらっている以上、結果の報告は当然と思えるからです。しかし、もっと重要なのは、上記のようなアンケート結果の利用では、実効の面で不十分であることです。公開されないと授業方法を改善しようとする気にはなかなかならないと思えるからです。人間は恥をかくことにより成長すると思います。次に恥をかかないように、頑張ろうということになりますので。土木工学科の場合には学科内では公開としていますが、学生に公開というところまでは踏み込んでいません。ご批判を待たせていただきます。おそらく、この公開は多くの教員の方々が反対であろうことを承知で書きました。   

                                                                                                                 以  上