ニーチェ哲学・規範(道徳)の作り方の紹介

2024/4/19 平野拓一

力強く前向きに生きるためのヒントが得られるニーチェの思想について紹介する。超人になるために必要となる、規範(道徳)の作り方などの例についても紹介する。

■ニーチェの哲学

フリードリヒ・ニーチェ(1844年-1900年)1,2 ・・・電磁気学が発展し、電気が商用化されて科学が大きく進歩している時代(年表)を生きた哲学者。科学の進歩とともに、チャールズ・ダーウィン(1809年-1882年)の進化論3の影響も受ける時代。

思想: ルサンチマン→ニヒリズム→永劫回帰→超人

・ルサンチマン
 弱者の強者に対する憎悪をみたそうとする嫉妬・復讐心
 例) キリスト教:イエスが十字架に架けられて処刑されるがその後復活という話を作る(ローマ帝国に対するルサンチマン)。禁欲主義。死後のあの世で救われるという考え方。
 →宗教批判。「神は死んだ」

・ニヒリズム
 宗教を否定し、神がいないとすると、善悪の規範がなくなる(誰が他人を理由なく殺してはいけないと言ったのか?何のために生きるのか?何故自殺してはいけないのか?)。宗教が掲げていた価値観は全て無になる。価値観・規範・道徳・目標・生きる意味を失う。→虚無主義。冷酷。脱力感。

(この問題を解決するニーチェの考え)

・永劫回帰(えいごうかいき)、永遠回帰
 輪廻(仏教)のような概念。同じ状態はまた訪れ、永久に繰り返す。物理的に考えても、このような物質の配置状態、つまり現在があるならば、ビッグバンが起きてまた同じ状態になることがあるはず。または、無から有が生まれたこの世界があるならば、同様のパラレルワールドが生じることもあるはず。キリスト教の価値観とは異なる。

・超人
 変えられない過去を含めて今現在を肯定的に受け入れ、ルサンチマン、ニヒリズムを克服し、力強く生きることを選んだ人。宗教に頼らず、自分で道徳などの価値観を構築することができる人。
 超人になるための考え方: 永劫回帰は物理的に正しい。→それならば未来の自分がまた惨めな自分にならないよう、何度繰り返しても後悔しない良い人生だと思えるように精一杯努力をして前向きに今を生き、人生を楽しもうという考え方(もし、生きることを諦めて自殺したら、遠い将来、また同じように自殺を繰り返す自分がいる。そうはなりたくない)。ルサンチマン、ニヒリズムを認識しながらも楽観的に楽しんで生きる。(未来に生きている自分はどうせ過去の記憶は残っていないからどうでもいいと言われたらおしまいで、理由としては少々弱く、誰もが納得できるものではないかもしれないが)

[少し逸れるが、関連する作品]
・映画「2001年宇宙の旅 (2001: A Space Odyssey)」(スタンリー・キューブリック監督)(Trailer
→テーマ曲は「ツァラトゥストラはかく語りき」(リヒャルト・シュトラウス)。「美しく青きドナウ」(ヨハン・シュトラウス)も使われている。
→AIのHALを搭載した宇宙船でAIが暴走するというストーリーだが、全体としては人類の進化を描いており、ニーチェの思想に影響を受けているのがよくわかる。

■規範(道徳)の作り方

基本的には人間・動物は個人主義・利己的である。(本質的に利己的でない人もいるかもしれないが、安定した社会システム構築のためには利己的であると仮定した方が安全である)
国・規則(憲法、法律)がある理由

社会契約論4(ジャン=ジャック・ルソー(1712-1778))
自然状態「万人の万人に対する闘争」5(トマス・ホッブズ(1588-1679))から秩序・規則ある社会を作って互いに契約し、自分の身を守る。
・自分の身を守るために、他者と協力する。
・これにより、理由なく他人を殺してはいけないなどの規範が出来上がる。→憲法・法律
・このように考えていくと、直観的に良いこととされる倫理・道徳・価値観が構築されていく(中には集団で間違えている、または刷り込まれている内容もあるので注意が必用)。
・安定した社会を形成するためには性悪説(他人は自分の利益を脅かす)の立場に立ち、各個人は(他者を思いやることなく)自身の利益を追求するように動いていると仮定して社会システムを構築するべきであると考える。「他人を思いやる」と言っている人も肉を食べるならば、人間以外の動物に対する思いやりはないのか?それは弱肉強食をしていることに他ならない(動物のことを思いやる菜食主義・ベジタリアンもある。宮沢賢治が小説「ビジテリアン大祭」で書いている対話は興味深い。)。食物が十分あるときは穏やかな人も不足したときはどうなるか(ナチスによりゲットーに収容されたユダヤ人)、権力や立場で態度どうなるか(ナチスによる独裁状態や映画「es[エス]」の題材となったスタンフォード監獄実験)は人による。司法権・立法権・行政権を分ける「三権分立」6(シャルル・ド・モンテスキュー (1689-1755))の工夫もその一例。

新渡戸稲造は日本では、宗教無くしてどのように道徳の教育ができるのかと外国人に聞かれて考えた考察を著書「武士道」7に記している。文献8にも、ラ・メトリーは道徳とは「われわれは人からそうされるのを欲しないから、われわれもしてはならないことをわれわれに教える感情」と述べていることが書かれている。

■食物・富の分配はどうするか?(経済)

生きるための目的ではなく、生存のための食料を確保し、余剰分を再分配する工夫。(ニーチェの思想のように生きる意味の根源を考えないと、刷り込まれた価値観しか見えない。目的を勘違いして生きている人も多い。)

・資本主義経済(自由経済)
 競争を促進させる。
(ただし、失敗例も多々ある。競争を持続させるために独占禁止法、カルテル、談合の禁止など一部制限が導入されている)
 また、金融におけるデリバティブ(先物、オプション、スワップ)など、少々流動性が高すぎ、ギャンブル性も排除できないので良くできたシステムとは言えない。→改善が必要。

・反資本主義
 社会主義、共産主義等9
 カール・マルクス(1818年-1883年)
 背景: ワット(1736年-1819)の蒸気機関。機械化と資本の集中。映画「モダン・タイムス」(1936, チャップリン)。

第二次世界大戦(1939年-1945年)。冷戦 1945年-1991年)

■宗教とは?

・ルサンチマン(キリスト教、ユダヤ教、仏教)
・政治的な統治のため(ヒンズー教、仏教)
・実用性のため(イスラム教)
・雷などの自然現象や死などに対する恐れと無知に対する対策のため

ニーチェに至るまでの様々な無神論の歴史は参考文献8に書かれている。フランシス・ベーコンの理神論の説明では、神が世界と物理法則を造り、後は造った法則に任せて何も手を加えないという考え方(理神論)が述べられている。「神はサイコロを振らない」と言ったアインシュタインなどに代表される物理学者が神と言うとき、この意味で神と言っているものと思われる。理神論の神(物理法則が出来たら何もしない)は道徳などを規定する一般的宗教の神とは役割分担が異なるため、理神論は無神論に近いものと考えることもできる。

サン=テグジュペリは随筆「人間の土地」10で、砂漠に不時着したときに救ってくれた人への称賛の気持ちなどに神に対する考え方が垣間見れる。

■儀式・慣習に従う理由は?

効率が良いから。慣習に従わなくてよいけど、自分で作ろうと思ったらもっと面倒である(「武士道」7に記されている)。
→問題があったら修正すればよい。
→無神論者ではあっても、キリスト教・仏教・神道の儀式に何ら反対するものではない。

【参考文献】

  1. 竹田 青嗣(著): ニーチェ入門, 筑摩書房, 1994.
  2. フリードリヒ・ニーチェ (著): ツァラトゥストラはかく語りき, 1883-1885.
  3. チャールズ・ダーウィン (著): 種の起源, 1859.
  4. ジャン=ジャック・ルソー (著): 社会契約論, 1762.
  5. トマス・ホッブズ (著): リヴァイアサン, 1651.
  6. シャルル・ド・モンテスキュー: 法の精神, 1748.
  7. 新渡戸稲造(著): 武士道, 1899.
  8. アンリ アルヴォン (著), 竹内 良知、 垣田 宏治 (翻訳): 無神論, 白水社, 1970.
  9. カール・マルクス: 資本論, 1867.
  10. サン=テグジュペリ(著): 人間の土地, 1939.

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