6/4 1限:授業ガイダンス + 2限:人間社会と環境を考える

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北米の環境主義論争と環境社会学の誕生

アメリカの環境社会学は,1978年のキャットンとダンラップの「新エコロジカルパラダイム(NEP)」をそれまでの「人間特例主義パラダイム(HEP)」と対比させる論文から始まった.しかし,このNEPとHEPの対立は,20世紀初頭の自然保護派と資源管理派との対立,1960年代のエーリッヒvsコモナー論争,など自然環境に関する考え方の対立の歴史に連なるものと考えることができる.

ecological debate

より詳しくは,参考書B, p.121(満田「欧米の環境社会学」, 図5-1)を参照.

20世紀初頭の自然保護論争:Preservationists自然保護派 vs Conservationists資源管理派

エーリック vs コモナー論争

人間による環境問題が認識されると,単に自然に対する考え方だけでなく,社会や技術に対する考え方も重要になってくる.ポール・エーリックもバリー・コモナーも生物学者であるが,社会や技術に対する考え方の違いから,環境問題を人口問題として捉えるのか,それとも技術を含む社会の問題として捉えるのかが異なることになった.

アメリカ環境社会学の潮流(教科書,p.9)

人間特例主義パラダイム/新エコロジカルパラダイム論争

CattonとDunlapによる以下の2編の論文が,アメリカで環境社会学という分野を切り開くきっかけとなった.この論文では,それまでの社会学は「西欧に支配的な世界観」に由来する「人間特例主義パラダイム(HEP)」であり,人間も自然の一部であることを重視した「新エコロジカルパラダイム(NEP)」へと転換する必要を説いている.そこでは,西欧で生まれた近代性,つまり合理性や資本主義に対する根本的な批判が含まれる.このような理論には,1960年代後半から盛んになったエコロジー運動や反公害運動が大きな影響を与えている.

西欧的世界観HEPNEP
人間人間は地球上の他の生物と根本的に異なり,すべての生物の上に立って支配している.人間は生物的遺伝に加え,文化的遺産をもち,他の動物種と異なる.人間は地球生態系に依存している一生物種である.
社会関係人間は自らの運命の支配者.自ら目標を選択し,その達成に必要なことを何でも習得できる.社会的・文化的な要因(技術を含む)が社会的事象の主な決定因である.社会的事象は社会的・文化的要因によってのみ影響を受けるのではなく,生態系の織り成す複雑な相互関係によっても影響を受ける.だから目的をもつ活動も意図せざる結果を生む.
社会環境世界は広大で人間のために無限の機会を提供する.社会的・文化的環境が社会的事象の決定要員で,生物的・物理的環境はほとんど関係がない.人間は有限な生物的・物理的な環境に依存して生活している.その環境が社会的事象に強力な物理的・生物的制約を課している.
社会への制約人間の歴史は進歩の歴史である.すべての問題には解決方法があり,進歩は止む必然性がない.文化は累積的である.技術的・社会的進歩は永続しうるので,すべての社会問題は究極的には解決できる.人間の発明の才能とその力は自然の許容限界を拡張するようにみえるが,エコロジー法則を無効にすることはできない.

(Catton and Dunlap, 1980: 34)

東アジアの環境社会学(教科書,p.13)

ディスカッションのための課題:環境問題を定義してみよう

  • 社会のなかで共有されているいわゆる「環境問題」=人びとの相互作用によって言葉の定義がつくられている.
  • 当たり前と思われている定義をいったん解体して,考えなおすことが重要である.
  • 実際に起きている個々の「環境問題」から,共通する特徴を考えよう.
  • その特徴から「環境問題」の定義をボトムアップ的に考えよう.

人間社会と環境を考える

草原の減少をどう考えればよいか(教科書 pp.10-12)

日本では草原は,人間の手を排除すると,森林になってしまう.しかし,草原には,草原でしか生きていけないような貴重な生物がたくさん存在する.草原は,人間が手を加えることで維持されてきた生態系である.

  1. 青森県種差海岸のサクラソウ
    • 馬産地としての芝の草原からクロマツの林へ,明るい牧場から暗い林への変化によって絶滅の危機へ
    • ISOフォーラムでの名久井農業高校受賞講演https://www.youtube.com/watch?v=xsDdFm0Jepo
  2. 熊本県阿蘇の草千里 aso

社会学が貢献できる方法は環境保護ではなく環境保全(教科書 p.3)

「環境問題」の発見(教科書 pp.6-8)

環境問題は社会問題である → 社会問題として環境問題を考える社会学的アプローチ

  1. 今や,人間の手が加わっていない自然環境などない.=純粋な「自然環境」問題は存在しない.
    → 自然環境問題を説明/理解する際にも社会的側面を考慮に入れる必要がある.
  2. 人間の行為によって起こる.=加害者と被害者が存在し,両者には非対称的な関係がある.
    → 加害者と被害者の関係を,行為者の主体性や権力作用に基づく社会構造の観点から理解・説明できる.
  3. 文化や歴史に影響される.=環境問題の起こり方は,社会によって異なる.例えば,日本社会とブラジル社会,伝統的社会と近代社会.
    比較社会学世界システム論の方法により,個々の社会を超える環境問題の広がりを理論化できる.
  4. 「環境問題」という社会的認知が環境問題をつくる.=環境問題はコミュニケーション(語られた,あるいは書かれた言葉)によって社会的に構築されている.
    → 環境問題をめぐるコミュニケーションが政治的・経済的・技術的・文化的な領域で行われ,社会意識や政策として形成される過程を,社会構築主義の視点から理解・説明できる.
  5. 環境社会学は,以上の「→」で代表例を示した多様な社会学的アプローチによって,環境問題を解決するための政策をよりよいものに変えていくことを目標とする.