6/18 1限:環境NPO・ボランティア・市民活動を考える + 2限:「環境問題」のコミュニケーション

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社会運動とは何か?(教科書,p.102)

環境運動の分析視角―社会運動分析の三角形―

social movement

社会運動はこれまで,三つの異なったアプローチで分析されてきた.(右図:参考書A,p99,長谷川公一「第4章 環境運動と環境研究の展開」より)

  1. 集合行動論的アプローチは,社会運動に参加する個人の動機として不満を重視した.環境運動の場合は,環境問題による集団的な被害である.
  2. 新しい社会運動論的アプローチは,運動の目標が社会変革であるとした.しかし,環境運動では,ラディカルな革命を目指すわけではない.
  3. 資源動員論的アプローチは,運動組織に動員される人や知識や機会に着目した.近年の環境運動では,地域住民に加えて専門家や行政などの協働が起こっている.

ところが,1990年代から,これら三つを統合する理論枠組みが現れている.フレーミング,政治的機会構造,動員構造である.

フレーミング―社会運動の参加主体の主観的意味づけ―

社会運動の参加主体が意識的・戦略的に問題となる「状況の定義」を構成すること,あるいはそのようにして構成された問題の定義がフレーミングである.この構成は,参加主体の文化的背景に基づいて公共的アリーナで行われる.それは同時に,参加主体の自己アイデンティティを確立し,外部の一般社会に認めさせる政治的プロセスでもある.

政治的機会構造―社会運動が起こる外部社会の構造―

社会運動がどのように展開できるか/活動の場を与えられるか/抑圧されるか,を規定する制度的・非制度的な機会.

動員構造

どのような資源がどのような条件のもとで動員可能であるか.

環境に関わる市民活動とNPO/NGO(p106-p108)

NPOの諸概念の構成(教科書,p.106)

NPO概念図
NPO・NGO ボランティア
組織/個人 組織 個人
収益・報酬との関係 収益はあげるが非営利.報酬を受けるスタッフがいる団体も多い. 原則的に無報酬.
自立性・自発性 自発的に民間の立場で活動する団体なので,自立性・自律性が問われる. 自発的だが,行政が主導するボランティアでは自立的とはいえない.
対象・目的との関係/評価 目的達成を第一義とする.目的の達成度が評価になる. 自己実現や自己満足のための活動も可.
マネジメント 必要かつ重要. 個人としてみたときは不要.集団では必要となる場合も.
収益活動の必要性 組織維持のため必要な場合が多く重要. 原則としてない.あっても付随的.
参加の立場 参加を促す側. 参加する側.

NPOの活動類型と環境政策形成の時代推移(時代の流れとともに①→②→③→④)

activity

しかし,③や④の活動が中心になると,市民活動の「制度化」「事業化」の課題が生じてくる(教科書,p.108).つまり,やっていることが営利企業と変わらなくなったり,行政の下請けとなって政治に取り込まれたりする.

何が社会的に構築されるのか?

多くの場合,環境問題は以下のようなプロセスを経て「環境問題」として社会的に認知される.

①人間の行為 ⇒ ②環境の変化 ⇒ ③「問題だ!」 ⇒ ④「環境問題」 ⇒ ②の構築プロセスへフィードバック

社会的な要因,つまり複数の人間の行為の相互作用が影響を与える箇所は,主として①,②,③の部分である.その影響の与え方(社会的構築の仕方)はそれぞれ異なるので,分けて考えることが必要である.

①人間の相互的な行為の集積が環境に変化を与える

環境問題の原因の社会的側面である.しかし,通常,この段階での影響を「社会的構築」とは呼ばない.なぜなら,この影響の及ぼし方自体は,それが非常に複雑な系を扱わねばならないにしても,客観主義的な自然科学や政治経済学によって分析することができるからである.
例えば,温室効果ガスの排出は,化石燃料を過度に消費する社会がもたらしたが,これは石炭や石油を燃料とする内燃機関による移動性の拡大,それらによって飛躍的に境界領域を広げる資本主義世界経済(世界システム)に基づく,というような解釈が可能である.

②環境の変化を認知した人びとが「問題だ!」と叫ぶ

環境の客観的な変化は,それ自体では問題ではない.それが問題となるのは,誰かによって主観的に「これは問題だ」と意味づけられるからである.すなわち,ある環境問題とは,人間による主観的意味づけである.したがって,何が環境問題かは個人,社会集団,文化,時代によって異なる.また,それがどのような環境問題かという意味づけの仕方(問題のフレーミング),名づけ方(レイベリング)も異なる.「環境問題が社会的に構築されている」という場合,最も狭義の意味はこの段階を指している.
誰が「問題だ!」と叫ぶか(問題の告発者)は,その問題の性質によっても異なるが,その後の問題の展開に重大な影響を与える.地球温暖化の場合は,問題の告発者は科学者集団であったが,水俣病の場合は被害者である患者団体とそれに寄り添う一部の医師であった.温暖化問題は比較的早く社会的認知を得たが,水俣病は公害病と認知されるまでに10年以上かかり,被害が拡大した.

③多数の利害関係者によって「環境問題」が再解釈・再定義される

環境問題は主観的な意味づけであるため,その解釈や定義は,利害関係者の相互作用によって変化する.この相互作用は社会状況や科学的知識によっても影響を受ける.異なった利害関係者は,異なった仕方で問題をフレーミングしている場合が多い.すなわち,ある環境問題は,異なった利害関係者間の闘争を通じて,再解釈・再定義される.この段階も,環境問題の「社会的構築」として重要である.例えば,1960年代の公害は,1970年代後半の不況期において,すでに解決済みの「過去の問題」であるとか,社会全体の責任であるなどの言説によって再解釈され,環境政策は後退し,企業批判は弱まった(環境運動側は,保守派による「巻き返し」と言う).
利害関係者間の闘争は,政治だけでなく,マスメディアや文化などの公共的アリーナにおいて行われる.公共的アリーナでは,どのような利害関係者がどのようにフレーミングするかが問題になる.そこでは,発話者のアイデンティティ(どのような資格で語るのか―被害者/加害者,専門家/素人,運動/行政など)も問題になる(アイデンティティ政治).水俣病患者は,異形の「公害被害者」として自らをアイデンティファイしつつ,保守派の行政や科学者と闘うことになった.公共的アリーナでの環境問題の(再)構築プロセスは,発話者のアイデンティティも(再)構築する.

④「環境問題」というカテゴリーが再解釈・再定義される

以上のプロセスを経て,個々の環境問題だけでなく,カテゴリーとしての環境問題もまた,公共的アリーナにおいて再解釈や再定義される.それは,ある客観的な状態を人びとがどのように意味づけるか(②による社会的構築のプロセス)に影響を与える.

フレーミング―社会運動の参加主体の主観的意味づけ―(再掲)

社会運動の参加主体が意識的・戦略的に問題となる「状況の定義」を構成すること,あるいはそのようにして構成された問題の定義がフレーミングである.この構成は,参加主体の文化的背景に基づいて公共的アリーナで行われる.それは同時に,参加主体の自己アイデンティティを確立し,外部の一般社会に認めさせる政治的プロセスでもある.

アイデンティティ政治

ある人々の集団が,社会のなかでマイナスのイメージを与えられたアイデンティティ(自分たちは○○であるという意識.他者からの視線と自らの帰属意識の相互作用によって生じる.)のために抑圧されていると感じて,そのアイデンティティをプラスに転化しようとして起こす政治的運動.例えば,女性,(欧米での)有色人種,少数民族,被差別民,障がい者などが,社会のなかで抑圧されていることに集団で抗議し,自分たちが抑圧する者たちと同等の権利を有することを主張するときに,アイデンティティ政治という言葉が使われてきた.個人的な権利回復運動と異なる点は,抑圧された経験を共有する人々が,同一のアイデンティティのもとに連帯して行動する点である.このような社会運動では,運動の参加者間の結束は強くなるが,周囲の一般社会との溝は拡大する場合がある.
環境問題の場合,公害病の被害者は,その公害病のゆえに差別され,奇異な目で見られることがあった.また,もともと差別されてきた人々が,その居住地域が工場や廃棄物処理場や飛行場などの「迷惑施設」に(差別されたために)隣接しているために,環境問題の被害者になる場合も多かった.これらの人々が,公害の被害に抗議し,原状回復や補償を求める場合,集団のアイデンティティを前面に出して闘うこともある.

公共的アリーナ

社会問題についての主張(○○は問題だ!)が行われ,その正当性が争われる公的な場.議会(国や地方自治体),裁判所,公的な調整機関(委員会,審議会,審査会など),学会(界),マスメディアなどがそれにあたる.公共的アリーナの参加者は,社会問題の定義や意味づけについて異なった主張を行い,「一般市民の注目」という稀少な資源の獲得に向けて争う.最終的に,複数のアリーナで,より多くの注目を獲得した主張が,その社会・時代におけるその社会問題のあり方,解決の仕方を決定付けることになる.