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これから、都市域における二次林の保全及び復元に関する研究の発表をさせていただきます。発表者の、田中研究室の高崎です。宜しくお願いします。
まず研究の背景と目的です。二次林の価値は、野生生物の利用という面では環境省版のレッドデータブック種の約5割が二次林をハビタットとしている事や、人間の利用という面ではレクリエーションや環境教育の場としての役割を担っているということより、再認識されています。しかしその重要である二次林は、区画整理事業、道路造成、宅地造成などの開発事業により二次林の量が減少しています。また、開発を逃れ残存した二次林は都市域の乾燥化という問題により質が減少しています。 そこで現在では、都市域の二次林を保全及び復元するための制度面、環境の質の面、技術面からの現実的な方法論の社会的必要性があります。
既往研究は、二次林に関する法制度面では武内、三瓶によって里山の土地規制の体系が明らかにされています。 都市の環境の質に関しては、宗宮、青木ら、小村らによって都市の乾燥化に関する研究が報告されています。 そして二次林における技術手法としては牧野ら、根本ら、重松らによってこれらの研究がなされています。
そこで本研究では、
・環境アセスメント制度まで含めた、都市域の二次林保全に関する法制度の体系と課題の整理
・乾燥化の進行した都市域の現状と課題の整理
・乾燥化に配慮した効果的な二次林復元・維持技術手法の開発を検討すること
を目的といたしました。
研究方法です。
法制度に関する調査として、都市計画・土地利用制度、環境アセスメント制度を
都市域の乾燥化の問題に関する調査として、横浜市の緑地の変遷、横浜市の湿度の変遷を
それぞれ文献より調査しました。
本研究では安価かつ効果的な都市域の二次林の復元手法を提案し
・提案した二次林の復元手法の検証実験を行いました。
また東京農工大学の星野先生より、実験に関する貴重なご意見を頂きました。
本研究は卒業研究から継続して行っており、その期間は20064月から20092月までとしました。
研究結果の報告です。
まず都市域の二次林の保護に関する法制度について報告いたします。
開発事業の計画が持ち上がる際に、まず開発行為が制限されている地域でないかの検討を行うため、都市域の二次林に関する土地利用関連制度の調査を行いました。 ここでは文献およびインターネットより抽出した59の土地利用関連の制度を調査しました。
その結果、都市計画法や都市緑地法など8つの法律が抽出されました。
これら8つのうち7つにおいて、都市域の二次林の消失に多大な影響を与えている市街化に関する建築物等の新設などが規制されていました。
しかしこの中には、古都保存法や首都近郊緑地保全法のように、開発事業に対して助言や勧告に留まるものもあったり
都市計画法においては、市街化を抑制する地域とされている市街化調整区域内でも一部の開発に許可が下りるような法改正が成されていたり
これらの法律によって、規制をかけることが出来る土地に指定されている二次林の面積は約30%に留まっていました。
次に、開発が行われる際の対策制度として、環境アセスメント制度の現状と課題をまとめました。 日本では1997年に環境影響評価法が施行されています。また都道府県や市区町村などの地方自治体においても独自の条例アセスが制定されています。
例えば横浜市では1998年に横浜市環境影響評価条例が制定されていました。
しかしこの制度では、規模の大きさによってアセスの対象とならない開発事業が存在することや たとえアセスが行われたとしても、ミティゲーションに明確な目標がなく実質的なミティゲーションは限られたものとなっていました。
都市域の二次林の保護に関する法制度の体系と課題をまとめました。
現在、都市域の二次林は8つの土地利用関連の制度によって土地利用規制をかけることが出来ることと 開発事業が行われる際は環境アセスメント制度によって適切な処置がなされることとされています。 しかし実際に土地利用の規制がかけられている二次林は全体の30%程度に過ぎなかったり、アセスで義務付けられているミティゲーションに明確な目標が無いという現状があります。
そのため、現在では二次林は消失する一方であることが明らかになりました。
次に、都市域の乾燥化に対して、横浜市の緑地の変遷という視点より調査しました。
1960年〜1990年の間の、横浜市の緑地の変遷を図及び数値データより調査しました。 こちらの図より、1960年から1990年までの30年間に大部分の緑地が消失してしまったことが明らかになりました。 1960年には横浜市の大部分が緑地であったのに対し、1990年には緑地と市街地の比率が逆転してしまっている事が見て取れます。 面積比については、横浜市より提供されている数値データによると1960年から1990年の間に約65%の緑地が消失していました。
次に横浜市の湿度の変遷をグラフに示しました。
様々な都市域における乾燥化の報告があるように、横浜市も他の都市域と同様に乾燥化傾向にありました。 ここで土地利用被覆が乾燥化に影響を与えているという既往研究に着目して、緑地の変遷をこのグラフに示しますと
このように、横浜市においても乾燥化傾向は、緑地の減少と相関関係にあることが示唆されました。 また、ここで湿地が湿度に大きな影響を与えているのではないかという考えに基づき・・・
横浜市の鶴見川流域における湿地面積の変遷を調査しました。
この図は、新旧2つの地図から地形・等高線・地図の読み取りより、湿地部分を青に塗りつぶしたものです。 こちらが1881年の鶴見川流域の湿地を示した図で、こちらが1998年の鶴見川流域の湿地を示した図です。 1998年には河川周辺にわずかながらに残る程度となっていますが、1881年の鶴見川流域では河川周辺以外にも広面積に湿地が広がっていることが分かります。 この図からフォトショップを用いて青い部分のドット数の比較を行った所、面積比で1881年から1998年の間に約90%の湿地が消失してしまっていたことが明らかになりました。
緑地と湿地の面積比の経年変化を調査した所、緑地に対する湿地の面積比は減少の一方であり
緑地に比べ、湿地面積の消失の割合が非常に大きいという事が分かります。
都市域の乾燥化の現状と課題です。
大阪や名古屋などの都市域において乾燥化が報告されており、横浜市においても乾燥化が進行していることが明らかになりました。 乾燥化は緑地(湿地を含む)の減少に伴い進行しており、横浜においては緑地の減少に比べ湿地の減少が著しかったことも明らかになりました。 これらの事を踏まえた都市域の二次林における乾燥化の課題としては、既往研究よ
二次林における好適湿生の植物が消失している
二次林の主な構成種となるコナラの発芽力が失われてしまう
という2点が抽出されました。
これまでの研究成果を踏まえ、都市域の乾燥化に着目した復元手法である窪地法を提案しました。 これが窪地法の概念図です。窪地法では先ず窪地を造成します。造成した窪地には雨水が溜まり、その雨水が周辺の土壌へ供給されます。そのため窪地法を用いることで土壌の水分条件が改善でき
左の図は窪地を設けていない二次林の様子を表したもので、土壌は乾燥し埋土種子が発芽せず林床植生が貧しくなり樹木は枯死してしまっています。 窪地を設ける事で、窪地に溜まった水分が土壌へ浸透し土壌含水率が上昇します。その結果、今まで発芽しなかった埋土種子が発芽し林床植生が豊かになり、二次林を代表するコナラなどの樹木が健全に生育するようになります。 ここで、これらの3つの二次林の問題点を窪地法が解決できるのかどうかを検証するために、土壌含水率の調査・出現植物の調査・コナラの生存率の実験検証を行いました。
実験対象地は本キャンパスの学食の裏手に位置しています。この黄緑色で示されたコナラが優先する、二次林の植生となっております。
そこに窪地を設けた実験区ともうけない対照区を15箇所ずつ設置しました。
実験区及び対照区において土壌湿度、出現植物、コナラの生存率を調査し比較することで、窪地法の効果を検証いたしました。
実験区及び対照区は、図の位置に15箇所ずつ設けました。
実験区の中心に窪地を造成し、その窪地は直径40cm、深さは20cmとなっております。
窪地の造成方法について説明いたします。
まず、出現植物の調査を行うために、実験区及び対照区における既存の植物を全て刈り取りました。
次に、実験区において窪地を設ける地点の表土を5cm採取します。これは、二次林の埋土種子の大部分が、この5cmの表土に含まれているためです。
そして窪地を造成します。窪地のサイズは直径40cm、深さ20cmとしました。
最後に、採取した5cmの表土を窪地内に均等に撒きだして、窪地の造成は完了です。
こちらが造成した窪地の写真です。窪地内が少々湿っている事が分かるかと思います。
土壌含水率調査の結果の報告に移ります。
土壌含水率の調査は、図の測定範囲内で、深さ5cmの位置で合計40回行いました。
こちらのサーモ902という器具を用いて、土壌湿度を測定しました。
調査結果を示した表がこちらです。
まずグラフですが、これは実験区及び対照区において計40回行った測定データ全てを示したものです。 全ての調査において実験区の方が土壌湿度が高かったということを示しているわけではありませんが、全体的に実験区の方が高い土壌湿度を記録していました。
これを平均値で見ますと、約5%の差が生じていました。
次に出現植物の比較です。
実験区及び対照区に出現した全ての種を数えた値を表にしめし、表よりグラフを作成しました。
この図より、3月を除く全ての調査において、窪地を造成した実験区の方が出現植物が多かったという結果を得ました。 また対照区においては夏期に植物種数が減少するのに比べ、実験区においては出現植物が減少することは無く、夏期の日照りが強い時期においても植物があまり枯死しないということも明らかになりました。 この結果より、窪地法は乾燥化が進んだ都市域における有効な植生復元の手法であるということが示唆されました。
最後に、コナラの生存率に関する調査結果です。
12月にコナラの種子数を、7月と8月に実生数を調査した結果を上の表に示しました。そして上の表より、発芽率と生存率を算出したものを下の表にまとめました。 その結果、12月に確認された種子数には少々差が生じているのに対し発芽率には差が確認されませんでした。
しかし7月〜8月にかけての生存率では、実験区と対照区において約20%ほどの差が生じているということが明らかになりました。 この結果からも、窪地法は乾燥化の進行した都市域における二次林の復元に対して有効な手法であるという事が示唆されました。
結論に移ります。
まず法制度面の現状についてまとめました。
都市域の二次林に対しての土地利用規制は全体の約30%に留まっており、またアセスにおけるミティゲーションには明確な目標が無いという事を述べました。 ゆえに現状では、二次林の立地は消失する一方であるということが明らかになりました。
次に都市域の環境の変遷に関して述べます。
横浜市においては緑地の減少に伴い湿度も減少しているということが明らかになりました。 また、他の乾燥化が進んだ都市域においては乾燥化による様々な影響が二次林に及んでいました。 そこで本研究では都市域の二次林が抱える様々な問題点をまとめ、それらを解決するために窪地法を提案しました。 提案した窪地法を実験より検証した結果、土壌含水率の上昇・植物の枯死率の減少・コナラの枯死率の減少が確認されました。 以上より、今後、二次林を復元していくことが必要であり、その際には「窪地法」を用いる事で安価で効果的な復元を行う事ができることが示唆されました。
本研究において、乾燥化が進んだ都市域の二次林の植生復元の際の窪地法の効性が示唆されました。 本研究では、窪地法を二次林の復元手法として提案しましたが、乾燥化が進行した都市域における屋上緑化や壁面緑化など様々な緑化に用いる事が出来る手法であると考えられます。 そのため今後は、窪地の形体による効果の差違を明らかにしていくとともに、窪地を造成する密度や土壌の質による違いを考慮していく必要があります。
最後に、湿地の減少に関して述べます。
今までは元あった自然環境を復元する事が正しいとされてきました。
しかし、例えば横浜市では特に湿地の減少が激しく、開発されてきた地域に自然環境を復元することは、現状では非常に困難です。 現状を踏まえれば、今後自然復元を行う場合、湿地を復元していことが重要となるのではないかと考えられました。
なお本研究は、 日本造園学会生態系工学研究会企画展示におけるパネル展示を行うとともに環境アセスメント学会・日本植物学会及びThe 4th International workshop on Sustainable Asiaにおいて口頭発表を行い、多くの有識者からの貴重なご意見をいただきました。
こちらが主要参考文献となっております。
最後に、年度末のお忙しい時期にも関わらずインタビューを快諾してくださいました星野先生に、この場をもちまして御礼申し上げたいと思います。有難う御座いました。
以上で発表を終わらせていただきます。ご清聴、ありがとうございました。