「無限」にはたくさんの種類がある

カントールが集合論を創始した時代からこれだけ年月が経ったにも関わらず、この基本的なことを大学生まで教わらないというのは、まったくの驚きです。(大学ですら教えてない場合があるかも知れません。)

一般の方の「無限」に対するイメージは、「要するに数え切れないたくさんあることなんでしょ?」のようなものだと思いますが、「無限にはたくさんの異なる種類が存在する」という事実は事態がそれほど単純でないことを示唆しています。


「無限」に対する誤解(その1)

「無限」とは読んで字のごとく「限りが無い」ということであり、「いつまで数えてもキリがない」という状態を指します。そのようなものとして、例えば多くの人は星の数を挙げるかも知れません。

ところが、次のように考えてみたらどうでしょうか?

夜空の星の数は「肉眼で見ることが出来る」あるいは「何等星以上である」という敷居値を儲けることにより(何千か何万かは知りませんが)数え切ることが出来ます。変光星などもあるでしょうから一概には言えませんが、例えば1等星以上の星は約20個、2等星は約70個、3等星は約200個あることが知られているようです。したがって、我々にとって夜空の星の数は無限ではありません。

実際には勿論、肉眼で見るよりはるかに多くの星が存在するので、気が遠くなる数の星が存在するには違いないのですが、それでも(「無量大数」だとか「googol」だとか様々な巨大な単位が知られていますが)大きな単位を作って、星の数を「〜個だ!」と宣言することは可能でしょう。(専門的な言葉を使えば、我々の宇宙を「3次元コンパクトな多様体」と仮定すれば星の数は無限にはなりません。)このように、「星の数を数えていけばいつか終わる」と考えても良いのです。

「星は無限にある」という詩的な言葉は現実には誤りであり、「実際に数えたらキリがない」という感情的結論と「本当に数えきることが不可能」という証明が必要な命題を混同している典型的な例だと言えるでしょう。(ある種の人々は「絶対」とか「無限」とかの類の言葉を好んで使うようですが)この世に「無限」などというものが存在するかどうか、誰も実証することは出来ないのです。


「無限」の例

しかし一方で、我々は想像上の物として実は無限を身近に知っています。それは整数全体の「個数」です。

(注)ここで、個数を「」で括ったのは、数え上げる(つまり、有限の数字で何個あるかを表す)ことが出来ないものを「個数」と呼んでよいものかどうかを躊躇するからです(正確には「個数」という言葉の代わりに「濃度」という用語を用います)。

整数は1,2,3・・・と数えていってもいつまでも終わりがありません。したがって、次の事が言えそうです。

事実1 整数を全て数え切ることは出来ない。したがって、整数の「個数」は無限である。


「無限」に対する誤解(その2)

上の無限の例は小学生でも感覚的には理解出来ることでしょう。しかし実はここからが難しく、人類は長い間次の誤解に陥っていたのです。

誤解 数え切れないものは、全部無限個で一括りにしてしまって良い。

これは、「分からないものはまとめて放っておこう」的な乱暴な議論で、誤りであることが知られています。事実次の2つが言えるのです。

事実1’ 整数全体の「個数」は可算無限である。つまり、「最後まで数え上げることは出来ないが、並べることは出来る無限」である。

事実2 並べることすら不可能である集合が存在する。例えば、実数全体は並べることが不可能である。


対角線論法について

事実2は、「対角線論法」という背理法を用いて示せます。例えば、仮に全ての実数を並べることが出来たと仮定しましょう。特に、0以上で1より小さい実数をA1,A2, ...のように順番に並べたと仮定します。また、各Aiの小数点以下j番目の数をAijと表すことにして、以下のように書くことにします。

A1=0.A11A12A13A14・・・
A2=0.A21A22A23A24・・・
A3=0.A31A32A33A34・・・
A4=0.A41A42A43A44・・・
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すると、全ての実数が並べられていると仮定したのに、このリストの中に入っていない数字を作れてしまうことが分かるのです。事実、

    Bi=0 (Aiiが奇数)
または Bi=1 (Aiiが偶数)

のように定義すれば、

B= 0.B1B2B3B4・・・

は、上のAi(i≧1)のリストの中には含まれていない新しい実数になります。これは、全ての実数を並べたという仮定に矛盾するので、結局全ての実数を並べることは不可能であると結論付けられます。

実際には、「ベキ集合」という構成方法によって(全単射が作れないという意味で)いくらでも大きな無限が存在することが知られています。