エルデシュ数

ポール・エルデシュ(Paul Erdös)さんは、大変多くの論文を書いておられる数学者です。ここによれば、1416編の論文(実際にはもっと多いらしい)を書いておられます(平成16年12月2日調べ)。もちろん、この本数は現在まで存在した数学者では最高記録です。彼は、残念ながら1996年9月20日に心臓発作で亡くなったそうです(享年83歳)。

多くの論文を書いた彼に敬意を表して「エルデシュ数」なるものが、次のようにして定義されています。

  1. エルデシュさん自身はエルデシュ数0を持つ。
  2. エルデシュさんと共著を書いた人は、エルデシュ数1を与えられる。
  3. n以下のエルデシュ数を持たない人がエルデシュ数nを持つ人と共著を書けば、エルデシュ数n+1を与えられる。
  4. 以上のルールでエルデシュ数を与えられない者は、有限のエルデシュ数を持たない(エルデシュ数∞を持つ)。

つまり、共著を線分にたとえて数学者同士を繋いでいったときに、エルデシュさんに辿り着くまでの経路にある最小の辺の数をエルデシュ数とするわけです。エルデシュさんは残念ながらもう亡くなられてますので、エルデシュ数1の人の人数はもう増えません(普通に考えれば、ということです。エルデシュさんの遺稿を読んでどなたかが勝手に共著として論文を書く、というような状況が可能性としてある?)。

したがって、今から努力して得られる最小のエルデシュ数は、エルデシュ数1の人と共著を書いて得られるエルデシュ数2であることになります。

エルデシュ数についてはThe Erdos Number Projectのページが詳しいです。ここで調べたところ、日本人でエルデシュ数1を持っておられる方は以下の方々のようです。見落としがありそうな気もしますが。

  吾郷孝視  Kohayakawa Yoshiharu  角谷静夫  白尾恒吉 (敬称略)

フィールズ賞、ネヴァンリンナ賞、アーベル賞、ウォルフ賞などの数学賞を受賞された方や、その他の有名人のエルデシュ数はここに書いてあります。個人的に調べてみた著名な方々のエルデシュ数の例は、例えば以下のようなものです。

お名前 ご職業 エルデシュ数
秋山仁 数学者
Chomsky, Noam 言語学者
Frankl, Peter 数学者
(Bill) Gates, William H. 会社経営
Gödel, Kurt 数学者
Hawking, Stephen 物理学者
Morgenstern, Oskar 経済学者
Oppenheimer, J. Robert 物理学者
Piaget, Jean 心理学者
Penrose, Roger 物理学者
Smith, John Maynard 生物学者
竹内外史 数学者
Turing, Alan 数学者
von Neumann, John 数学者

代数トポロジーの研究者で2以下のエルデシュ数を持っている人は、私の知る限りでは以下の方々です。

お名前 エルデシュ数
Cohen, Frederick R.
Farjoun, E. Dror

有限のエルデシュ数を持っている(もっとも早く生まれたという意味での)最古の人物は、Richard Dedekind (1831-1916, エルデシュ数7)だそうです。しかし、彼とErdosをつなぐ著作には数学の論文というよりも教育関連の出版物もあるようなので、David Hilbert (1862-1943, エルデシュ数4)やGeorg Frobenius (1849-1917, エルデシュ数3)の方が確実なようです。

その他にも、例えばこちらのページを参照すれば次のことが知られているようです(平成16年12月2日閲覧):

エルデシュ数
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
人数
504
6593
33605
83642
87760
40014
111591
3146
819
244
68
23
5

したがって、中央値が5,平均が4.65,標準偏差が1.21ということです。(そんなもん求めてどうする!ってツッコミは無しです。数学そのものとはあまり関連がない、ただの「お遊び」ですから。)

今後は、次々に共著を書くことでエルデシュ数を受け継いでいき、何百年か後には有限のエルデシュ数を持つ数学者がどんどん少なくなって、細々と受け継いでいく事態に陥るかも知れませんね。そうすると終いにはエルデシュの末裔とでも言うべき人々が出てくるかも知れません。あるいはそれと反対に、誰かと共著を書いたことがある人は全て有限のエルデシュ数を持つ事態が起こるのでしょうか??(人類の起源とも言われる「イブ」がアフリカで見つかったことを考えると、後者の方が正しい予測?)

また、上でDedekindが数学の論文以外の著作でエルデシュ数を獲得していることを述べましたが、それが許されるならば、例えば対談集もオッケーにして秋山仁 -- 佐高信 -- 荒木経惟とつなぐことにより、何とアラーキーが高々4のエルデシュ数を獲得します。いいのだろうか?これは。

なお、エルデシュ数と同じようなものにベーコン数なるものがあることを最近知りました。映画俳優版のエルデシュ数ですね。


最後に、私のエルデシュ数についても書いておきます。次のことが分かりました。

命題 私のエルデシュ数は4である。

証明 Erdosさんから私に辿り着くルートの1つは以下のものである。

Paul Erdos ---> Saharon Shelah(1972年にErdosさんと共著) ---> Emanuel Dror Farjoun(1989年にShelahさんと共著) ---> Douglas C. Ravenel(1999年にFarjounさんと共著) ---> 私(2002年にRavenelさんと共著)

これは、例えばMathSciNetで確認出来る。したがって、私のエルデシュ数は高々4である。一方、私のエルデシュ数が3以下であるためには、エルデシュ数が2以下の人と共著を書かなければならないが、例えばここを見るとその可能性がないことが分かる。以上により、私のエルデシュ数は4である。(証明終)

"Six Degrees of Separation"などというフォークロア(つまり、知人の連鎖を6人通せば地球上の誰にでも辿り着ける)もあるくらいですから、おそらく日本でもエルデシュ数が4程度の人はざらに居ることでしょうが(勿論、論文を書くことは単に知り合うより厳しい条件ですが)、自分の場合を調べてみるのも案外面白いものでした。ありきたりな感想ですいません。




関連リンク

The Erdos Number Project

ここは、結構遊べるページです。Mathematical Reviewsのデータベースを用いて様々なデータを公開してます。例えばここでは数学の論文数毎に、またここでは共著者の数毎に、何名の数学者が居るのか?をパーセントで示しています。200本以上書いている人が200名以上居るというのは驚きですね。また、504名(実際には509名らしい)の共著者が居るのは、もちろんErdosさんです。

その他にもここを参照して頂ければ、数学の論文についてMathematical Reviewsから調べられた次のような事実が書いてあります:

その他、500本以上の論文を書いた唯一の日本人(すごい!)としてOwa Shigeyoshiさん(エルデシュ数3)が挙げられています。