座右のゲーテ 斉藤孝

壁に突き当たったとき開く本

本質は「上達論」
「具体的かつ本質的」というゾーンに向けて、自分のすべてを収斂させる方法をゲーテは教えてくれた。

I 集中する

1.小さな対象だけを扱う

対象を十か二十ぐらいの小さな個々の詩に分けて描く。・・・大きな対象をまるごと包括的につかもうとすると、必ず厄介なことになって、完璧なものなんて、まず出来っこない。

絞り込みがコツ。レーザー光線のようにエネルギーを一点に集中させることができる。
思索のスケールは大きく持ち、集中する対象は絞り込んでいくという技を身につけたい。

2.自分を限定する。

結局、最も偉大な技術とは、自分を限定し、他から隔離するものをいうのだ。

「洞察と活動とは、しっかり区別されなければいけない。」(エッカーマン)

表現する対象は、狭くても深ければ問題はないが、吸収の対象まで狭めてしまうのは愚かなことだ。そうしたことは、活動、表現面と吸収面を区別していないために起こる。

「才能のある人間は、他人がやっているのを見ると、自分にもできると思いこむものどが、じつはそうではない」

「表現手段はミニマムに、吸収の器はマキシマムに」

3.実際に応用したものしか残らない

ゲーテには、常に学びを作品化するという頭がある。逆に言えば、作品にする、仕事にするという意思抜きの勉強などしない。それが身につけるコツだと言う。

常に実践的に学びを生かそうという心構えを持って取り組んで切るか否かで差が出る。

4.日付を書いておく

人生は常に流れてしまうものだ。書類の裏や手帳の隅などに、アイディアや、思いついた一言などを書きつけておくことは、行動の記録となる。

5.完成まで胸にしまっておく

魂にとって大事なことをむやみにしゃべるな

6.実際的に考える

日本人は、そもそも頭の中で逡巡をすることだけが本質的思考だと思っているふしがある。

ゲーテは、本質はとらえようとするが、それを具体的なものの上に妙とするタイプである。

本質的なものを求めようとするあまり、抽象的になりがちな傾向を戒めた言葉である。

II 吸収する

7.最高を知る

最高を知れば自然と批評眼が身につく。

基準があれば他のものを的確に評価できる。相場を知るのが大事だ。

人生は有限、よっていちばんいいものに情熱を注ぎたまえ。

モーツアルトならピアノ協奏曲、ベートーベンなら中期、後期の弦楽四重奏

ジャンルで好き嫌いを言わない。

8.独創性などない

どんなものでも、先人たちの影響なしにつくったものなどない。

過去の遺産ともいえる文化を無視し、薄っぺらい独創性に重きをおいているのが近代の病なんだ、とゲーテは言い切っている。

”オリジナリティ”という幻想にとらわれてしまっているために、近代の人々は先人たちの成果を勉強しないクセがついてしまうのではないかとゲーテは懸念した。

独創性などという主観的なものにとらわれるよりは、もっと力強いものに憧れ、大いに影響を受けよとゲーテは言うわけだ。

学ぶということと個性は対立し、学べば学ぶほど独創性が失われるかのように思われているのが問題である。

前時代のものを全否定するところに新しい自由や創造があるんだという洗脳があまりに強烈すぎたため、先人たちの遺産を学ぶという姿勢はほとんど消滅している。

「生まれてからずっと、世界は自分に影響を与え続けている。だから独創性ということに対する一種の幻想はやめたまえ」

9.独学は非難すべきもの

師匠について学べ。師匠につけば体系的に基礎を学ぶことができる。

絵画の印象派は、明確なフォルムを描き出すことをある種否定して、光の変幻自在な動きだけで描く。形を描かずに光の動きだけで表現するというのは一見進化したように聞こえる。だが、じつはその印象派らしさは、印象派の弱点と表裏一体なのだ。

10.自分だけの師匠を持つ

どんな才能だって、学識によって養わねばならない。

日本ほど印象派の展覧会が繰り返し催され、高値で取引される国はない。

日本人がこれほど印象派を好むメンタリティには、ゲーテが批判していたようなある種の脆さが関係しているのかもしれない。

現代作品だからといった理由で吹けば飛ぶようなものを教科書にしていく弱さが社会全体で加速しているのが恐ろしい。

「今の子どもの感覚にマッチしたものを」という名目で新しいものばかりを取り上げてきた結果、絶対的な技量を持っているものとそうでないものを見分ける目がなくなってしまった。

血の滲むような努力をした人たち、客観的にレベルの高い技能を持った人たちを尊敬する空気がなくなると、それを目指す人がだんだn少なくなってしまう。それがさらなる衰退を呼ぶ。

11.「素材探し」を習慣化する

テキストとは興味・関心が喚起される素材なのだ。

いいテキストとは、発見する楽しみを参加者側に残してあるものである。・・・比較する対象が二つあると間違いがない。

会議に出ている人たちが参加できるような素材を提供できれば、イメージがパット喚起され、より活発な議論になっていくはずである。

12.使い尽くせない資本を作る

最高のものを自分のものにしてしまったら、それは決して使い尽くすことはないのだ。

「この世において、画期的なことをするためには、周知のとおり、二つのことが肝要だ。第一に、頭がいいこと、第二に、大きな遺産を受け継ぐことだ」

自分は何を受け継ぐかという意識が問題である。系譜意識。

憧れを持ってある人を徹底的に勉強することで、その人を資本にしていくことができる。

III 出合う

13.愛するものからだけ学ぶ

「之れを知る者は之れを好む者に如かず」

ゲーテは、自分が敬愛でき、かつ自分の個性と似通ったところがある相手からだけ人はいい影響を受けるものだとか確信していた。

偏愛している世界があると、それが自分を磨く砥石のようにもなる。

14.豊かなものとの距離

ある人の個性が豊かで強烈であれば、その人に憧れ、集まってくる人が出てくる。しかし影響されすぎた場合、その周囲にいる人々はオリジナリティを失っていくのである。

ゲーテは著作物に触れたとき、どうやってつくるのか。そのプロセスまでを念頭に描きながら向き合うことを勧めている。

15.同時代、同業の人から学ぶ必要なない

何世紀も不変の価値、不変の名声を保ってきた作品を持つ過去の偉大な人物にこそ学ぶことだ。
同時代、同業者に影響されて右往左往しているのではなく、偉大な先人の残したものと交わっていくことが大事だ。

16.性に合わない人ともつきあう

17.読書は新しい知人を得るに等しい

心というのは年を取るにしたがって狭くなるものである。

18.癖を尊重せよ

人間の関わり合いが一つのドラマとして面白くなるのは、人間に癖があるからだ。それなくしてドラマは成立しない。

癖とはそもそも人間の過剰な部分である。それを愛せないということになると、皆がある種の同じ行動をとらないといけなくなってしまう。

「小さい人間の社会」(ニーチェ)偉大なものをどんどん引きずりおろしていこうという澱んだ空気、大衆の嫉妬の海が広がっているように思えてならない。

IV 持続させる

19先立つものは金

自分の投資にルールを決める

無形のものに金をつぎ込む

20儀式の効用

全体のバランスを見ながら役割を果たす

ある人ができることはその人に任せて自分は口を出さないことが大事だ。非常に仕事ができるからといって、その人があちこちに口を出すと、要するに他の人の立場がなくなる。

「拍子と休止を守らなければならない」

儀式を毛嫌いしない

要するにこの儀式は一つの音楽なんだと思えば、「無駄な力を使わないですむ」

儀式など不毛だとキリキリしていると、かえってストレスになる。だが、皆それぞれシンバルを打ったり、トライアングルを鳴らしたり、何かしなければいけないんだと思えば気が楽になる。

21.当たったら続ける

勝っているときはやり方を変えない。これは勝負に勝つ鉄則だ。

22.他人の評価を気にしない

23.異質なものを呑み込む

巨大な呑み込みの作業を、仏教伝来から考えると千五百年ぐらいの年月をかけて日本人はやり続けてきた。これらすべてが今の日本語の力となっている。呑み込む力の凄まじさと豊潤な精神性を、私たちは誇りとすべきなのではないかと思う。

「日本特有の」というブランドより、世界の優れたものを積極的に受け入れて、自分たちなりに変形してものにしているのが日本である。その開かれた姿勢こそが、これからの私たちにとっても必要なものである。

24.邪魔の効用

邪魔の効用の一つは、中断されたことによって、仕事の質が高まることがあるということだ。

脳や筋肉というのは、普段適当にサボっている。だが、何か不測の事態が起こると、それを乗り越えようとして一気に働き出したりする。
身体の一部の具合が悪いとむしろ感覚は鋭敏になり、プレーも繊細になる。

邪魔が入って回り道をするのは、螺旋階段を上がっていく感じに近い。螺旋状態を別の言葉で言えば「アイデアを寝かせる」ということになるかもしれない。

邪魔というリスクに対抗する方法。それは、自分の仕事に「納期」を課すことである。

本当にやりたい仕事は放っておいてもやるものだ。気持ちはやりたい方を優先してしまいやすい。

V 燃焼する

25.現在というものに一切を賭ける

情熱というものが過ぎ去らないうちに紙に書いておくなり、写真を撮っておくなり、何か形にしておくことが大事だ。

26.計り知れないものが面白い

27.感情を生き生きと羽ばたかせよ

マニュアルがしっかりしていれば、ある仕事をだれでも初日からきちんとこなせる。だが一年勤めても、そこで新しい仕事を自分から作り出すことはできない。

使う側にライブ感覚がないと、やはりメソッドやマニュアルは生きてこないものなのである。

仕事の本質を考えてみたとき、いちばん意義のある仕事とは何かを生み出す仕事である。

28.詩的に考える

29.過去に執着しない

執着しないことは、自分を攻撃する人々から逃れるコツである。物事は、できあがるとすぐさま突き放してしなうべきものと、何年も温めていくものの二つがありそうだ。・・・自分の中でかかずりあう対象を、あらかじめ短期・中期・長期に分けておくということである。

人生というものは一本の時間軸でできているのではなく、何本かの線路が交差しながら流れているのである。

30.青春のあやまちを老年に持ち込むな

31.年を取ったら、より多くのことをする

年を取ってエネルギーが落ちてくると、懐古的になり自分の本来を愛せなくなる。そうならないためには、年を取ったらより多くのことをして、自分自身を更新していくことが大切だ。

以  上