リーダーは半歩前を歩けー金大中というヒントー 姜尚中(カンサンジュ)
「カリスマ」とは宗教用語で「神の賜物」。リーダーとは違う。
リーダーはもともとはコマンダー司令官を意味したらしい。
なぜリーダーシップ論が再燃しているのか。極度な情報化などのせいで「個人化」があまりにも進みすぎたために、多くの人がどうしていいかわからなくなってきた。
「自由からの逃走」(エーリッヒ・フロム)が差し迫った問題になっている。
自由であることの重荷から逃れるためにマゾヒスティックな何か強い力に引っ張られたがっている。
面白うと思うと、ワッと飛びつきます。でも、違うと、サッと退きます。一時的に飢えを凌ぐだけです。・・・さんざん持ち上げておいて、急に引きずりおろす。ヒートアップして、クールダウンする。言ってみれば、「焚きつけ型」の民主主義・・・
リーダーというのは、すげ替え可能な「ミスター・スケープゴート」の別名の場合もあるのです。
「私は民衆の半歩前を歩く」(金大中)
ぜったいに国民の手を離さず、国民がついてこなければ、「半歩」下がって彼らの中に入り、わかってもらえるまで説得して、同意が得られたら、また「半歩」先を行く
人びとの状況に応じて、世の中の「文脈」に即して、柔軟に対応していくリーダーシップー。このようなリーダーシップが、いま、最も求められている。
「低い土地の風景を描きたいならば、高い山に登って見降ろさなければならない、高い山の風景を描きたいならば、低地に降りて、下から仰ぎ見なければならない。・・・それと同じように、人民の本性を知るためには君主の立場からそれを見なければいけないし、君主の本性を知るためには人民の立場からそれを見なければいけない。」(マキャヴェリ、君主論)
情報化が進んで「個人」が成熟してくると、アンデンティティーが多元化し、分散していく。アンデンティティーが分散すると、人びとは共同幻想を抱きにくくなる。共同幻想が抱きにくい状態とは、国民国家や企業組織といったものへの帰属意識が希薄になった状態、組織に対する忠誠心とか求心力といったものが揺らいだ状態です。
いまの時代のリーダーが目指すべき最大の目標は、「持続可能性」
人を生かすための反映でなければ意味がない。
先見力 リーダーはビジョンを示せ
「意味への意志」人は無意識のうちにも、自分の行動に何らかの意味を見出しています。だから行動できるのです。・・・意味を付与する力は先見性と言える。
ビジョンは共同体に対する使命感のようなものと結びついていなければならない。
自分たちは何者で、何のために働き、生きているのかという理由をはっきりと説明できることは、リーダーの力を考える上で、まず第一の基本だと思います。
目標設定力 具体的に、何を目指すのか
その目標が、私たちが思い描く社会のイメージと整合していれば、ずいぶん説得力を持つ
動員力 これこそ「カリスマ」の本領
華、存在感
コミュニケーション力 「キメのセリフ」を出せ
相互作用と、発する力
熱しやすく冷めやすい世論の「温度計」ではなく、場合によっては、むしろその「温度調節器」の役割をあえて引き受けなければならない
マネジメント力 「情報管理」と「人事管理」
インサイダー情報、有料情報、匿名情報という3つの情報
「私は敵でもの使う」(金大中)
「イエスマン」ばかりを集めてはならない。
個人的な好悪の情を超えて、敵対している人間であっても、目標を達成するためには適材適所に使う。
「アマは和して勝つ、プロは勝って和す」(三原修、プロ野球の名将)
判断力 「生もの」と「干もの」のインテリジェンス
生もの 刺身の魚を考えるとよくわかるように、新鮮でおいしいが、腐りやすく、あたることも多い。
干もの 採れたてではないけれど、あたらない。長い間熟成されている分だけ「うまみ」つまり、普遍的な叡智が詰まっている。
生ものと干ものの両方の知性を組み合わせてこそ、リーダーの判断力は無敵になる。
決断力 「孤独」に耐える精神力
判断力は、知性を駆使しても正解がわからない、ギリギリのところでどちらを選ぶべきか決定する胆力、それが決断力です。
不可知論的な選択
リーダーの最終的な力量は、どれだけ孤独に耐えられるかという、「孤独力」といっても言い。
金大中との対談
「『歴史と勝負する』ということが、自分が何かを決断するときの、一つの基準になってきた側面もあります。多くの人は、大きな決断をするとき、歴史と勝負するのではなく、現在と勝負します。目の前にある現実の利益を重視します。でも私は、せっぱつまって決断を迫られた時も、現実の利益よりも、後々自分が歴史にどう評価されるかということのほうを考えてきました」
「歴史は後退しない。つねに前進する。」
「民を以て天と為す」(中国格言)
「人すなわち点」(韓国格言)
「民に仕えることは天に仕える如し」(韓国格言)
「正しい言論は命をかけて守れ、正しくない言論には屈するな」
「汝、復讐するなかれ、復讐するは我にあり」(聖書ロマ書)
『歴史の研究』(トインビー)
「人も国も、寛大な態度が重要です。「対話」で解決すること、「力」で解決しないこと。この二つが、人類が平和的に共存してゆくための道だと、私は信じています。」
「いちばん重要なのは、長い歴史とよく対照して、自分たちがやった誤りを見つめることです」「歴史に学べ」
「日本は過去を清算していない。・・・ドイツに学んでください。」
「日本は、国民に対してきちんとした教育をしてください。過去の歴史に対して、真実を学んでください。そうすれば、日本は世界から愛される、偉大な国になる。」
「政治家は『望遠鏡』のように、ものごとを遠く広く見なければいけないし、同時に、『顕微鏡』のように細かく深くも見なければなりません」
「『書生的な問題意識』と『承認的な問題意識』、この二つを兼ね備えていないと、本当の政治家にはなれないでしょう」
「二歩も三歩も先に行ったら、国民と握っている手が離れて、彼らはついてこられません。だから、あまり前に行ってはいけないのです。・・・優秀な革命家が成功しない理由の一つはそれですね。先に行きすぎるのです。でも、かといって国民と横並びでもいけないのです。それでは発展がありません。」
「何かしようとするときは 三度考えろ」
リスクを負える「責任力」
リスクを負える勇気、責任とは自己犠牲、
世の中が豊かになったために、捨て身の冒険ができにくくなったのです。持ち物が多くなると、人はそれを失うのが怖くなります。だから、宝物を失わないために「リスク・マネジメント」を、若いうちから徹底して身につけることになります。国民みなが、子供のときから英才教育のように、危機管理を刷り込まれますから、イチかバチかの決断が、できなくなるのです。
自分を投げ出す力
リーダーというのはリスキーなのです。しかし、それでもなお飛び込むから、みんなが感動し、結局は、人がついてくるのです。
リーダーは熱くなければいけない。
冷たいリーダーはダメです。人がついてきません。かといって、微温的でもダメです。ダレてしまいます。リーダーは熱くなければいけないのです。…「信じる力」があるということ、ただそれだけで、すなわち「熱い」ということなのですから。
「日々の要求に従」いながら、同時にそれがその時々の利害の問題にとどまらず、日々の営みの変化に耐えられる「歴史の要求に従」うことにつながらなければならない」(金大中、ウェーバー)
「不可能なことに挑戦しなければ、可能なことも成し遂げられない」(ウェーバー)
以 上
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