会社の品格 小笹芳央
1.組織の品格
(1)組織に過剰反応するな
一人ひとりの社員に必要になるのは、会社の側から内部を見ておかしくないかという視点と、社会という外部から見ておかしくないかという両方の視点です。属している組織に過剰に適応するリスク。
歪んだ組織の中で出世できたとしても、その組織の外では、まったく通用しない人物になってしまう。
(2)使命や目標の必要性
数字や儲け以外の使命や目標によって、社会と接続されていなければならない。
社会にメッセージを送れる人間。
(3)事業メッセージ
ニーズが多様化している中で、どのニーズに応えるのか、どのニーズには応えないのか、あるいは何をするのか、具体的に決めることが大切。
誰に何を伝えるのか、というメッセージが社員と共有され、社員の共感を生んでいるか。
(4)金銭報酬以外の共感
誰しもが、使命感や成長感、貢献感などを欲している時代になっている。
「この部分で複数の人間が共感を軸に集まっています」という「共同幻想の軸」ともいうべきものが欲しい。
それが組織の品格を表すことになる。
(5)組織の問題は間で起こる
コミュニケーションが滞ると組織の病気は慢性化する。
上下間、左右間のコミュニケーションを大切に。
特定の人を問題にし、議論を始めようとすると、まず間違いなく働き始めるのが当事者の防衛意識。
間に問題があるという認識を共有すれば、当事者も問題の存在を認めやすくなる。
根本的には、間の信頼不足や、信頼崩壊から問題は起きている。
そしてその背景にはコミュニケーション閉塞がある。
(6)拡大モードの組織が持つ症状
カリスマ依存症:盲目的追従、言論統制、上層部を批判できない、顧客ではなく上を見て仕事をする、社員の意識が外に向かない。
カリスマの100歩より、社員100人の一歩を引き出すことで、永続的成長が可能になる。
戦闘疲弊症:軍隊メタファー、顧客軽視、社内用語にあらわれる。
マネジメント不全症:特定の人に仕事が集中、不適切な役割分担、業務の統制が利かない。
視野狭窄症:短期目標ばかりに目が行き、社会と会社内部との価値観がずれる。
(7)成熟モードの組織が持つ症状
顧客視点欠落症:顧客より自己保身、会社の物差しで顧客を測る
当事者不在症候群:だれも責任を負わない、誰も何も決められない、問題点を見ようとしない、事なかれ主義、新たなアクションはつぶす。
既決感蔓延症:どうせ聞いてもらえない、所詮会社は変わらない、あきらめの審理、正論を口にできない雰囲気、ルールや仕組みに社員が意見を言える雰囲気が必要。
セクショナリズム横行症:過度な機能分化、縦割り弊害、顧客に対する無関心、連携するべき部署に無関心
2.上司の品格
(1)上司の役割
上司は、人員の増加によって関係性が複雑になる協働体において、複雑性を縮減させるために、コミュニケーションの結節点という役割を担っている。
リーダーシップとは、ある目的の実現に向けて人々に影響を与え、その実現に導く行為。
自分なりの職場の目標やビジョンをきちんと設定し、言語化し、未来構想図を描き、それを伝えていく。
リーダーの影響力の源泉は、専門性・人間性・返報性・一環性・厳格性。
すなわち、すごい・素敵・ありがたい・ブレない・厳しい。
権力を笠に着た影響力の行使は長続きしない。
金やポストでは人は動かなくなってきている。
(2)上司の頭
主体的に自分の頭で考える。
(3)上司の口
絶妙のタイミングで絶妙の言葉をかけることのできる口を持つ。
自分の言葉で語れない上司は部下の共感を得られない。
部下の仕事を、職場の目指す目標との間で意味付けできる口を持つ。
作業レベルの指示しかできない上司、その業務の重要性、その業務に対する期待、その業務の背景にある意義を口で語れない上司は品格を問われる。
(4)上司の目
物事を色眼鏡で見ない。
勝手な思い込みをしない。
目のいい上司は、良いところを見て褒めるという姿勢を常に持っている。
(5)上司の耳
会社や職場、自分に対するマイナス情報や批判にキチンと耳を傾けられるのが品格のある上司。
聞きたくないマイナス情報にいやな顔をしたり、耳をふさいでしまっては品格が問われる。
このような上司に対しては、耳を貸しそうな話だけをするようになる。
悪い情報こそ先に持ってこい、という空気を作っておく必要がある。
(6)上司の鼻
自分なりの信念や、自分なりの判断軸がある。
職場の空気や雰囲気の変化に敏感である。
場の空気が読めない、人の気持ちがわからない、唯我独尊に陥るといった、鼻の利かない上司のもとでは、社員はイキイキと働ける品格のある職場は作れない。
(7)上司の腹
腹をくくってリスクを恐れない。
決断ができる。決断とは、「決める」と「断ち切る」。首尾一貫してブレない。言行一致。
(8)上司の手
両手を広げ、部下や他部署とつながっている。
両手を広げて問題を受け止めてくれる。
(9)上司の足
現場に足を運ぶ。
「心の皺」のないやり方で、「脳のシワ」だけを用いても人は動かない。
部下より半歩先を歩く。10歩先では見えなくなる。
(10)その他
非常時にこそ品格は顔をのぞかせる。
肩書きがついたら視界を一段階上げて物事を見ることが求められる。
状況によって視界を設定し、視界を合わせて議論すること。
ダメ上司に対して、社員からイエローカードを出せる仕組みが求められる。
3.仕事の品格
(1)外部適応と内部統合
たんに外部適応の観点から、役割や機能の分化を行っても、組織は効果的には動かない。
一人ひとりの仕事を担う人材のモチベーションを極大化した業務設計を行わなければならない。これを内部統合という。
カネやポストだけをニンジンにしてぶら下げられたところで、高いモチベーションを持って働けなくなっている。
働く側のモチベーションは経済的充足よりも、精神的充足に向かっている。
社内での出世やポストから社外での市場価値へ、ワークモチベーションは多様化している。
成果主義ではモチベーションの危機は解決できない。
成果主義はお金とポストの配分ルールの変更に過ぎなかった。
成果主義で実現できたのは結局のところ、総額人件費の削減だけだった?
働き手は仕事の意味報酬を、金銭報酬以上に求めている。
仕事を通じたキャリア形成ができることが重要。
意味のキーワードは、納得感・使命感・効力感・普遍感・貢献感・季節感
(2)納得感:会社員モードから社会人モードにスイッチしたときに、「納得感」がしっかり持てるかどうか。自分が顧客であるならば、喜んで自社の商品を買うか。自分の仕事を親しい知人に勧められるか。
(3)使命感:使命感とは、文字通り、「命」を「使」う価値があると感じられること。あるとき街を歩いていた旅人が、石を積んでいる職人に聞きました。「あなたは何をしているのですか」と。すると、職人は答えました。「見ればわかるだろう。石を積んでいるのだ」と。ところが旅人は、もう少し歩いて、同じように石を積んでいるもう一人の職人に同じ質問をしてみました。すると、その職人はこう答えたのです。「私は教会を造っているのです」と。自分の仕事が、石を積むというレベルではなく、教会を造っているのだというレベルで再解釈できる状況を作ることができれば、人々は使命感を持って仕事に取り組むようになる。
目的・手段の連鎖関係の中で構成されている仕事は、実は機能分化・階層分化が進めば進むほど、それぞれの担当する仕事の本来の「上位目的」を見失うような傾向を持っている。仕事というものは、その解釈の目線が、どんどん下の階層へと下がっていく宿命を持っている。
(4)効力感:働く側は自分の個性や創造性の発揮を求める。自分でなくてもいい仕事は誰もやりたがらなくなってきている。
それぞれに選択の余地を残し、選択の機会を与えることで、効力感を持たせることができる。
一方、判断のすべてを個人に委ねてしまえば、会社全体の効率は落ちる。必要なのは、手順を規定する部分と、個人の判断を生かせる部分のバランスをとってゆくことである。
また、商品価値と人材価値のバランスも、仕事の品格には大きな影響を及ぼす。
(5)普遍性:人材流動化が始まっており、働く側が自らのキャリアデザインに敏感になり始めた。社内の人間関係に詳しくなる、部門間の調整に長ける、社内の決済ルートに強くなる、ミドルに顔が利く、といった、いくら技量が高まっても、他の会社に転職した瞬間、使えなくなる組織内特殊スキルである。いつでもどこでも通用する技術や知識、資格をポータブルスキルという。これからの会社は普遍性を意識して仕事をデザインしなければならない。
(6)貢献感:仕事のつながりを実感できる機会をつくる。貢献実感を持つ機会を提供することで、社員の想像力が高まり、貢献している相手が見えてくる、相手の事情を考えるようになる。結果として、社内事情や部署事情を過度に優先するようなことがなくなる。その結果、会社の品格が高まってゆく。
(7)季節感:人工的に意図的に季節や時間の区切り目を入れることによって、心新たになる機会、心が改まる機会を作り出しているのではないか。
品格のない会社は、社員から意味と時間を奪う。社員を機械の部品のように扱う会社は、意味を奪う会社の典型例である。今している仕事が、全体の中のどの部分なのかという「構図のアプローチ」と、いつまでこの仕事をやるのか、いつ役にたつのかという「時間のアプローチ」を意識しながら部下に指示できるかという点にこそ、経営の技術、マネジメントの技術がある。この流れで捉えると、まったく意味がないのが内部抗争である。
時間は資源である。この意識は会議に現れる。だらだらと意味もなく長引く、議題が明確に成っていない、付き合いで参加している人がいる、過去の惰性で参加している人もいる、進め方が下手で結論がなかなか出ない等々。
サービス残業が常態化しているような会社は、早晩、間違いなく社員から見放されていく。
品格のある会社は社員に働く意味と充実した時間を与える。
4.処遇の品格
品格を保つためには社会情勢に合わせた処遇のシステムが必要である。
社会の多様性にあわせて、社会の写し鏡のように、会社内にも多様性を取り込まなければならない。
社会が求めているのは、さまざまな働き方を許容し、選択肢を提供すること。派遣は本来雇用形態の多様性という視点で言えば横の関係であるが、これを上下の関係で見てしまう。社内の役職の上下も実は本来あくまで役割の違いに過ぎない。
会社と社員の関係の結び方には二つの方法がある。一つは、辞めやすい会社作って、やめて欲しい人にやめてもらうこと。もう一つは、辞めやすい会社を作って、辞めて欲しくないハイパフォーマーの在職維持リテンションに努めること。これからは後者を採用するべきである。
退職金は本来払うべきお金を会社が預かっているということで、労働債務である。
年功制も、会社に提供しているバリューと、本来であればもらえたはずの給料のバランスがとれていないということ。
会社というものは、経済合理軸で動く存在である以上、いつ社員を解雇するかわからない存在である。したがって、後払いシステムから、即時清算システムへと転換してゆく必要がある。会社との貸し借り関係は作るべきではない。
女性の活用という言葉を使うこと自体、すでに品格の欠如である。女性がいたからこそ、男性は男のムラ社会の中で右肩上がり一辺倒で年功序列、終身雇用の世界にいることができた。
ライフステージごとに役割や期待の握り直しを行えるようにすること。
成果主義的な傾向が強まる中で、そもそも定年制というのは、論理矛盾がある。成果と年齢はまったく別の概念。
公正な評価というものは、実は存在しません。正しい評価というものもない。いい評価のポイントというものがあるとすれば、評価する側とされる側が、どれだけ信頼感をベースに「納得感」のある評価を下せるか、ということである。
学歴重視の社会は、正解が用意されているものを正しく間違いなく導く能力に長けた人材を国家的にたくさん育成し、教育する社会であった。現代は、正解があった社会から、正解を創り出す社会へと変わってきている。多くの会社で、学力試験と業績との連関は証明されていない。
社員の評価のあるべき姿:視点や指標の開示、評価期間を定め社員の役割や期待内容を握り直す機会を作る、定量的な評価と定性的な評価を互いにすり合わせ納得感の醸成に心がける、パフォーマンスだけでなくプロセスも評価する。これからの社会は、ちょっと学歴が高い、偏差値が高いというだけで活躍できるような社会ではない。
人的資源に投資するスタンスこそ、会社の品格を大きく左右する。会社は、「意味報酬」を創り出すための、あらゆる活動に力を注ぐ必要がある。意味報酬は、カネやポストとは異なり、誰かがたくさん取ったら、誰かが冷や飯を食うというものではなく、無尽蔵に社内で創り出せる報酬である。
5。経営者の品格
独自の規範を持つ組織においては、出世競争に敗れたひとほど社会的品格を備えている傾向がある。社会からズレた規範を持つ組織の中で評価を受け、出世して偉くなり、社内で最高の成功を手に入れたとしたら、その人は、ズレた規範を全面的に受け入れ、誰よりもその規範を守り、その規範に沿った行動をしてきた、といえる。
会社の品格を守るためには、「経済合理軸一辺倒の会社」と、「多様な価値観が存在する社会」の結節点を経営者が担うという意識が必要である。
会社内外の情報を開きながら「共同幻想」を創り上げる。
すべてのステークホルダーに正直な情報開示を行う。
自分を律するルールを作る。
6.社員の品格
会社統制の主役は社員である。
会社は、内部統制、コンプライアンス、コーポレートガバナンス
など、外部からさまざまな統制を受けようとしている。
会社に依存するのではなく、精神的に自立する、会社に寄りかかるのではなく、自らで生きていく意識を持つ。
一つの会社に人生を預けきるのは相当リスキーである。いつなくなるかわからない会社に寄りかかるのではなく、自らを軸に考え、自己責任の意識で生きていくという発想を、今以上に持たなければならない。
「自分株式会社」の視点を持つ。所属している会社がエクセレントカンパニーになることができれば、「自分株式会社」のバリューを上げることにつながる。
「自分投資家」という視点を持つ。人生そのもの、命そのものである「時間」を会社に投資していることを忘れない。
消費者の視点を持つ。会社人であると同時に、社会人であるという認識を持ち、その間に壁を作らない。あるいは、その双方をつねに行き来できる感覚を持つ。
以上
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