蒲生邸事件 宮部みゆき
スイッチボタンで事足りる時代に、「人間」でなければ出来ないことは、ごく限られている。「人間」である孝史を求めてくれる仕事を、ひいては人生そのものを、見つけることは難しい。・・・人の力が重んじられた時代だから、人間同士のつながりも暖かい。
東條英機は、これからこの皇国を傾斜していく時代の大半を、英雄とあがめられて過ごす人物だ。誰もたてつくことのできない独裁者となる人物だよ。しかし、戦後には彼の権威も名誉も地に堕ちる。最悪の戦争犯罪人と定義されて、彼の家族も辛酸をなめることになる。
歴史とは何か、そして歴史を評価するとはどういうことかを、さりげなくこの小説は問うている。・・・宮部みゆきは、時をまっすぐにつらぬいてかわらぬものがある。かわってはならないものもある、といっている。それは、ひと口にいうなら「過去を過去であるという理由で差別しない態度」である。
過去を過去だということで差別せず、いまある歴史、今流れて行く時間に責任をとるということである。
以上
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