研究内容
重力波物理学・天文学/データサイエンス研究室(GW-DS Group)では、物理学および数理科学・情報通信技術を基盤としたデータ駆動型科学を軸に研究を進めています。
研究の成果は Web や講演会、サイエンスカフェなどを通じて広く発信したいと考えています。高等学校、高等高専などとの連携を強化しており、連携授業や講演会、デモンストレーションなどを通じて、中高校生に教育・研究成果を詳しく示し、理科・数理・情報教育にも生かしています。また、小学校、中学校や高校の現職教員の研修講習会などにも積極的に参加し、現職教員とともに教材開発も進めています。
今後も、サイエンスカフェなどの市民講演や中学・高校生向けの講演会などにて、わかりやすく宇宙に関する研究成果をお話しする機会を、積極的に設けたいと考えております。ぜひ問い合わせください。
重力波物理学・天文学/データサイエンス研究室(GW-DS Group)にて、主に取り組んでいる研究内容を図1にまとめてみました。

(中央のセンサの写真と中央左の運転の様子の写真:[秋月ほか,FSS2019]より)
大きく「ビックデータ解析」と「オペレーションズ・リサーチ」の2つテーマを扱っています。全ての研究で共通するのは、取得したデータを緻密に分析する手法(アルゴリズム)やソフトウェアを開発し、実際のデータに適応しその結果を解釈・役立てるという点です。
ビッグデータ解析
「ビックデータ解析」は、重力波データ解析(宇宙物理学)、人工知能・機械学習を用いた特徴抽出(センサデータ)分野、教育への応用の3つのサブテーマに分けています。
1.重力波データ解析の研究(重力波物理学・天文学の研究)
キーワード:時系列データ解析、Linux、プログラミング、機械学習、統計処理、ハードウェア
岐阜県飛騨市神岡にある大型低温重力波望遠鏡 KAGRA(図2) のデータ解析手法の開発、および、データ保管・転送のシステムの開発を進めています。KAGRAの中心機関である東京大学宇宙線研究所と学術交流協定を結び密接に連携をして研究を進めています。


(右)KAGRA坑内の写真(写真提供:東京大学宇宙線研究所 重力波観測研究施設)
重力波とは、時空のゆがみを光の速さで伝える波動現象です。その直接観測による重力波物理学・天文学は始まったばかりですが、多くの科学成果が生み出されています。例えば、2015年9月14日にアメリカのLIGOが観測した重力波は、連星ブラックホール(BH)の合体からもたらされました。人類初の重力波観測だけでなく、太陽の30倍の質量を持つBHの発見、連星BHの発見、そして一般相対性理論の実験的なテストなどの多数の成果をもたらしました。重力波を用いた物理学・天文学は幕開けしたばかりですが、さらなる科学的成果を挙げていくためには、データから重力波の情報を取り出し、大きなノイズが含まれる時系列データから微少な信号を取り出す手法の開発が必要不可欠です。最近では、材料損傷検出、非破壊検査や生体モニタリングの分野において用いられている適応型の時間-周波数解析の一つであるHilbert-Huang 変換 (HHT) を重力波データ解析に適用し、新しいデータ解析工程の設計からコード開発、統計処理方法に特に力を入れ研究を進めています。HHT解析は、短時間フーリエ変換やウェーブレット変換などに比べ高い時間・周波数分解能をもつことが知られています。高い時間-周波数分解能で解析できるHHT解析を重力波のデータ解析手法に応用することにより、従来の解析法では出来得なかったノイズが非常に多いデータから微弱な重力波の情報を取り出し詳細な解析をすることが可能になります。
情報科学、特に、人工知能・機械学習・深層学習分野の研究の進展は目覚ましいものがあります。機械学習(深層学習を含む)を重力波データ解析に適用し、新しいデータ解析工程の設計からコード開発、統計処理方法の研究を進めていきたいと考えています。他分野の知識を重力波データ解析へ応用することは、マルチメッセンジャー天文学および新たな天体物理学を実現するために非常に重要であり、かつ、「カギ」でもあると考えています。とにかく重力波物理学・天文学が本格的に展開されるまでは、試行錯誤の繰り返しが予想されますが、新しい視点で独創的なデータ解析法を開発し続けることは極めて重要であると考えています。
また、KAGRA と同じ場所に、地球内部の動きを精密に測定する神岡レーザー伸縮計が設置されています。そのデータ処理装置の開発、および、データ解析手法の開発を東京大学地震研究所と共に進めています。
研究の中心であるデータ解析法というのは、非常に微弱な重力波の信号をノイズにまみれた観測データから取り出すことであり、物理学や天文学というアカデミックな問題だけにとどまらず、重力波観測装置の根幹をなすレーザーや鏡などの高度な機器制御と、それを用いた精密測定に関する技術の開発・研究にもつながるものです。
さらに、HHT解析や機械学習そのものは、音声処理、画像処理や心電図、筋電、脳波などの生体信号の処理など、広い分野で研究・活用され始めているため、HHT解析や機械学習に関する成果は、重力波データ解析に留まらない広い領域に影響を与えることができると考えています。
2.人工知能・機械学習を用いた特徴抽出(センサデータ)
キーワード:人の行動解析、歩行動作解析、安全運転支援、スポーツ科学 (アスリート支援システム など)、医療 (睡眠時無呼吸症候群の早期発見 など)、時系列データ解析、機械学習、統計処理、プログラミング
センサデバイスの小型化に伴い、センサ(例えば加速度センサ)を使って、日常の動作や作業中の体の動きを計測・収集することが容易化しています。 特に、ゲーム(エンタテインメント)や機器の操作での活用を目的として、計測したデータからユーザの動作を認識する技術の開発が進んでいます。しかし、単一の動作(例えば、立つ、歩くなど)を認識するだけでは、その応用範囲は限られ、自動車の運転やスポーツ、加工機械の操作などの訓練による習熟の必要な作業において、計測データから個人差や習熟の度合いを反映したパターンを抽出し、動作の「巧みさ」を定量的に評価することはできません。
そこで、我々のグループでは、操作/作業者ごとの個人差やスキルの定量評価を目標とし、身体動作の計測データから個人差や習熟度を考慮した特徴量パターンを抽出するための 研究を進めています(例えば、図3のような歩行動作の特徴を抽出する研究など)。本研究は、基礎的段階ですが、開発を進め、人の身体動作における個人差や習熟度を、低コストかつ簡便に把握することができるようになり、技能教育支援への貢献ができればと考えています。

例えば、自動車の運転において交通事故や交通違反の頻度には個人差のあることが知られています。そこで、運転者ごとのクセやスタイルといった個人ごとの違いを明らかにすることができれば、個人にあった交通安全講習や技能教育方法の開発に貢献できると考えられます。
また、身体動作の計測・評価・支援技術が必要な分野(スポーツや芸術、産業における熟練技能の伝承など)への応用展開が期待できます。
3. 教育への応用
キーワード:教育工学、教育現場、統計解析、機械学習、人工知能
人工知能(AI)を駆使した教師の活動を支援する Society 5.0 時代の新教育システムの開発をしています。図4に示すような、学習者が行うタブレット端末上の活動を収集し、行動記録や学習記録などと組み合わせた教育データとして記録できるようなシステムを開発しています(edutab システム)。この教育データをAIなどを用いて分析できるようにし、教師のリフレクションに役立てることを目的にしています。さらに、特徴抽出技術を用いて、リアルタイムに授業にもフィードバックできるようにし、教師の行う授業を支援し、質の高い授業の実現をめざしています。
これまで教師の技量は経験で語られることが多かったと思います。しかし、授業が定量化でき、その結果をクラウド環境に蓄積することができると、そのデータをエビデンスとした授業の振り返り、授業分析などが行え、科学的な教師育成を行うことができるようになります。また、蓄積されたビッグデータは教育用AIの開発や、自治体単位、国単位での教育分析手法の開発などにつながる可能性があります。「教師とAIが協働する」を合言葉に「ICT」、「データサイエンス」、「教育」の専門家メンバーがタッグを組み進めています。

オペレーションズ・リサーチ
キーワード:数理的な考え方、論理的な考え方、プログラミング
「オペレーションズ・リサーチ」の研究では、熟練者の勘と経験に基づいておこなわれていた意思決定を、データを基にして『非熟練者やコンピュータ』でもおこなえるようにするためのモデル化や解析方法およびそのソフトウェアの開発に取り組んでいます。
最近では、COVID-19感染伝播シミュレーションについての研究を進め、関係各所に成果の共有やデータの提供などもしております。引き続き研究を進め、より良い判断をすための検討材料として、成果の共有・公表やデータの提供などを進めていきます。
今まで、利便性を維持する将来の公的施設数・施設最適配置問題や生産システム・プロジェクトマネージメント・鉄道システムなどをMax-Plus代数を用いてモデル化・最適化する研究、SNSを介した避難所の混雑情報の交換行動を考慮した災害避難シミュレーションなどの避難行動計画策定のための研究などに取り組んできました。今後も様々なデータを活用し実社会に必要とされている研究課題を学生、企業や自治体などと連携をして進めてきています。
研究内容に興味を持った方、一緒に研究を進めたいと考えた学生は、ぜひコンタクトを取ってみてください。